鉄分は、意識して摂らなければ不足しやすい栄養素です。身体に鉄分が少なくなると普段の生活では問題がなくても、激しい運動をすると、貧血を起こしてしまう可能性もあります。
また、女性では月経や妊娠・出産の時期にも鉄分は不足しやすく、疲れやすくなったり、調子を崩したりする人も少なくありません。
この記事では鉄分とはどのような栄養素なのか、不足することで受ける身体への影響、さらに摂取量目安や吸収率を高めるポイントなどを解説します。
栄養素について気になっている方、鉄分の摂り方について悩んでいる方はぜひ参考にしてださい。
鉄分とは
鉄分は、赤血球のヘモグロビンに多く存在するミネラルのひとつです。
鉄分が不足すると貧血になるのは、聞いたことがある方も多いでしょう。※1鉄は、赤血球のヘモグロビンの材料となるもので、鉄がないとヘモグロビンが生成できず、息切れやめまいなどの貧血症状が起こります。
また鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、ヘム鉄は肉や魚に含まれ、非ヘム鉄は野菜などに含まれます。ヘム鉄は非ヘム鉄よりも吸収が良く、動物性たんぱく質やビタミンCと一緒に摂るとさらに吸収率が上がるのが特徴です。※2
鉄分が不足することによる身体への影響
鉄分が不足すると貧血になるのは、聞いたことがある方も多いと思いますが、貧血はヘモグロビンが減少することで起こります。
ヘモグロビンは、鉄と結合して全身に酸素などを運搬する重要な働きがあります。そのため、鉄が不足するとヘモグロビンが作られず、全身の血液を流れるヘモグロビンも減少していくのです。
ヘモグロビンが不足すると、全身の酸素が不足し、疲労感、頭痛、息切れ、めまい、皮膚や粘膜のトラブル、運動機能の低下などを招く原因になります。
また、鉄分は精神発達にも大事な栄養素で、不足すると注意力の低下、イライラ感、食欲不振、抑うつ感などの症状が出ることがあります。※3
鉄分の1日の摂取目安量とは
日本人成人(20~49歳)が1日の食事から鉄を摂取する量の平均は、成人男性では7.5mg、月経のある女性では10.5mg(月経のない女性:6.5mg)が推奨されています。※4
身体の代謝によって、1日あたり成人男性では約1mg、女性では約0.8mgの鉄が排出されるため、鉄分は意識して摂っていく必要があります。
とくに女性の場合、月経中・妊娠期・授乳期は鉄分が不足しやすくなるので注意が必要です。月経中は、出血していることで鉄分が不足し、妊娠期はお腹の赤ちゃんにも栄養がいくためです。
さらに授乳期は、血液から作られる母乳を赤ちゃんに与えることで貧血になりやすいため、より意識して鉄分を摂っていく必要があります。
鉄分を多く含む食べ物
貧血を予防するには、鉄分を多く含む食べ物を摂ることが大切です。以下で、鉄分を多く含む食べ物について紹介します。
レバー
レバーは、鉄分が多く含まれている食品です。とくに豚や鶏のレバーは、1食で1日の推奨摂取量の2分の1を摂取できます。
一食あたり豚レバーは6.5mg、鶏レバーは4.5mg、牛レバーは2.0mg(生50gあたり)含まれています。
レバーを使ったおすすめのメニューは、豚レバーを使ったレバニラ炒めです。レバーに含まれるのは吸収率の良いヘム鉄で、ヘモグロビンの材料となるたんぱく質が豊富なほか、ニラは鉄の吸収率を高めるビタミンCが含まれるため、鉄と一緒に摂ることで吸収率を高めてくれます。
また、βカロテンや食物繊維など栄養も豊富で、貧血予防だけでなく身体全体の健康や疲労回復にもおすすめです。
あさり
あさりの缶詰の水煮の場合、鉄分は100gあたり37.8mg入っています。※5 1食分の量としては30g程度なので、1食で10mg程度の鉄分を取ることができます。
あさりを使ったメニューでは、あさりとほうれん草のパスタがおすすめです。ほうれん草にも、鉄分が含まれているだけでなく、ビタミンCも一緒に摂れるため鉄分の吸収率がアップします。
小松菜やホウレン草
小松菜やほうれん草にも、鉄分は含まれています。1食分に鉄が含まれる目安としては、小松菜で1食75g(ゆで)に1.6mg、ほうれん草で1食75g(ゆで)に0.7mgです。
小松菜やほうれん草は、鉄でも非ヘム鉄のためヘム鉄を含むものやビタミンCと一緒に摂って吸収率を上げるのがおすすめです。
小松菜やほうれん草を使ったレシピでは、先述した、あさりなどと一緒にスープにすると水分とともに流れ出た栄養も摂ることができ、効果的です。
豆類
豆類で鉄分を多く含むものは、レンズ豆、インゲン豆、小豆などです。レンズ豆やインゲン豆、小豆は造血作用のあるビタミンB6や葉酸も豊富に含まれるので、貧血予防におすすめの食材です。※6
また、大豆はたんぱく質も豊富なため、豆腐からタンパク質を摂取することで間接的に体内でヘモグロビンを作るのにも貢献することができます。
ただし豆類の鉄は吸収率が低い「非ヘム鉄」のため、ヘム鉄を含むものやビタミンCと一緒にとって吸収率を上げていく必要があります。
豆類を使ったレシピでは、ひじきと大豆を使った煮物などがおすすめです。
鉄分を効率良く摂取するためのポイント
鉄分は不足しやすいため、効率良く摂取する必要があります。以下では鉄分の吸収率を高めるポイントについて解説します。
よく噛んで食べる
鉄分は、胃酸が分泌されると吸収されやすくなります。よく噛むと、胃酸が分泌されため、食べるときにはよく噛むようにしましょう。
また、よく噛んで食べると満腹中枢も働きやすくなり、食べ過ぎ防止にもなるため、鉄分の吸収を促進するだけでなく、健康にも良い影響があります。
たんぱく質やビタミンと一緒に摂る
鉄のほかにもヘモグロビンなどの材料になるたんぱく質や鉄の吸収を高めるビタミンCの摂取も大切です。赤血球が作られるときには、葉酸やビタミンB12なども必要となります。
貧血は、ヘモグロビンの減少によって症状がおこるため、赤血球を増やしていく必要があります。このとき、鉄分だけとっていても、赤血球は劇的に増えることはありません。
貧血を改善させるために鉄分を摂ろうと意識している場合は、たんぱく質や葉酸、ビタミン類などの造血作用のある栄養素も一緒に摂っていくようにしましょう。
鉄分の吸収を妨げるものを避ける
タンニン(コーヒーや紅茶、緑茶など)やフェチン酸(穀物の外皮、玄米など)などの栄養素は鉄分と一緒に摂取すると鉄分の吸収を妨げてしまいます。※7
また玄米やおからなどの不溶性食物繊維は、一緒に排泄されてしまい、身体に吸収されないため注意が必要です。加工食品に含まれる、リン酸塩も鉄の吸収を阻害することが分かっています。
鉄分を摂る際は上記の栄養素と組み合わせていないか、確認しましょう
調理方法を考える
鉄製の鍋やフライパンは、調理中に鉄が微量ながら溶け出すため、鉄の吸収率が良くなります。調理中に食品から溶け出たものも、摂れるように汁物などのレシピで食べるのもおすすめです。
鉄分は衣揚げやゆでることで減るため、鉄分摂取を意識する際は調理方法も工夫しましょう。
鉄分を多く含む食事を摂って健康な身体を作ろう
鉄分は、普段意識していないと不足しやすい栄養素です。鉄分を多く含む食べ物を選ぶ、よく噛んで食べるなど、意識して鉄分を摂るよう心がけていきましょう。
貧血予防にはヘモグロビンが必要なため、鉄分だけでなくヘモグロビンを作る材料となるたんぱく質や葉酸、ビタミン類などの栄養素を摂ることも大切です。ただし、なかには鉄分の吸収を妨げるものもあるため、食品や飲み物の組み合わせには注意しましょう。
なお、それでも貧血が解消されないなど健康への不安が続く場合は、医師に相談するようにしてください。
また、鉄分の吸収を高めるには、食事だけでなく運動も有効といわれています。そのため食事的な改善だけでなく、筋トレなどの運動によって、筋肉量を増やしていくことも大切です。
24/7Workoutでは食事も含め、個人に合ったアドバイスやトレーニングメニューを提案しています。バランスの取れた食事メニューと合わせて効果的にトレーニングを行いたい場合には、一度無料カウンセリングを受けてみてください。
参照文献
※1 eヘルスネット.鉄.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-022.html(参照2023年9月6日)
※2 一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所.鉄.https://www.orthomolecular.jp/nutrition/fe/(参照2023年9月6日)
※3 厚生労働省.e-ヘルスネット.貧血の予防には、まず普段の食生活から見直そう.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html(参照2023年9月6日)
※4 厚生労働省.鉄の食事摂取基準.https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4aq.pdf(参照2023年9月6日)
※5 国立国会図書館.レファレンス共同データベース.あさりとしじみの100グラムあたりの鉄分の含有量を知りたい。どちらが多いのか。.https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000203979 (参照2023年9月6日)
※6 女子栄養大学出版部.豆を食べて健康生活⓵貧血対策.https://eiyo21.com/blog/pr_mameruikyo_vol1/(参照2023年9月6日)
※7 星ヶ丘医療センター.貧血の方のおすすめレシピ.https://hoshigaoka.jcho.go.jp/%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AE%E6%96%B9%E3%81%AE%E3%81%8A%E3%81%99%E3%81%99%E3%82%81%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%94/
<監修者プロフィール>
勝木美佐子
1993年日本大学医学部卒業、2000年日本大学大学院医学専攻科公衆衛生学修了。博士(医学)、日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会健康スポーツ医、日本大学医学部兼任講師。内科医として臨床を行い、30数社の嘱託産業医として活動中。